お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

最終イベント《ルーシー side》

◇◆◇◆

 ────憑依の一件……というか、前世の暴露大会から早一週間。
こちらの予想に反してリエート達は直ぐに現状を受け入れ、順応してきた。
そのおかげか思ったより混乱は少なく、予定通りイベントをこなせている。
────でも、それももう今日で終わり。

「ルーシーさん……いえ、麻由里さん(・・・・・)本当にお一人で行かれるのですか?」

 つい先日互いに本名を明かし合ったからか、朱里はここぞとばかりに名前を呼ぶ。
ここで迷わず苗字の寺田ではなく、名前の麻由里と選ぶあたり彼女らしい。
『まあ、きっと本人は無意識でしょうけど』と思いつつ、私は苦笑を漏らした。

「しょうがないでしょ。このイベントには、私しか参加出来ないんだから」

「で、ですが……やはり、お一人で行くのは危険だと思います」

 チラリと私の後ろにある洞窟を見つめ、朱里はそっと眉尻を下げた。
それも、その筈────この洞窟の奥には、とても危険な存在が居るから。
私だって逆の立場なら、引き止めていただろう。
でも、

「皆で行く方が危険なの。何度も説明したでしょ」

「……はい」

 沈んだ声色で返事する朱里は、これでもかというほど肩を落とす。
『私に麻由里さんを守れる力があれば……』と零し、すっかり意気消沈してしまった。
タンザナイトの瞳に不安を滲ませる彼女の前で、私は小さく肩を竦める。
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