お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「まあ、大丈夫だって。あっちは『光の乙女』である私に手出し出来ないから。サクッと行って、サクッと最後(・・)のアイテムを回収して、サクッと帰ってくるよ」

 『ちょっとだけ待っていて』と言い、私はレーヴェンに用意してもらったローブのフードを被る。

「このイベントが終わったら────即刻魔王戦なんだから、心の準備でもしておいて」

 ついに目前まで迫ったラスボスとの戦いを指摘し、私は朱里の頭を撫でた。
すると、ようやく諦めがついたのか……彼女はおずおずと首を縦に振る。

「分かりました……どうか、お気をつけて」

「朱里達もね。ここ、野生の動物盛りだくさんだから」

 どこからともなく聞こえてくる動物の鳴き声や唸り声を前に、私は『なかなか物騒』と頬を引き攣らせる。
────と、ここで男性陣が呆れたように溜め息を零した。

「動物など、僕達の敵ではない」

「まあ、魔物に比べれば全然マシだよな」

「それに今回は護衛騎士も居るからね。私達のことは気にせず、行ってくるといい」

 『焦らずにね』と言い聞かせ、レーヴェンは少し離れた場所に居る騎士達を一瞥した。
じっとこちらを見つめてくるアメジストの瞳を前に、私は小さく笑う。
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