お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『やっぱ、私じゃ無理か』と落胆しながら、腰に手を当てた。

「お答えする義務はないかと」

 嫌な態度を取る相手にわざわざ媚びる必要もないだろうと、私は感じの悪い女を演じる。
『光の乙女』の所持者には危害を加えられない、という制約を最大限利用して。

「生意気なガキだ」

「お褒めに預かり、光栄です。それより、早く杖を」

 右手をズイッと前に突き出し、私は『勿体ぶらないで』と急かした。
さっさと朱里達の元へ帰りたい私に対し、聖獣は渋る動作を見せる。

「君にこれを扱い切れるとは思えないが」

「それはやってみないと、分かりません」

「凡人はどうして、無謀なことをやりたがるんだ」

「何が言いたいんですか?」

 いい加減頭に来て嫌味っぽく言い返すと、聖獣はゆっくりとこちらへ近づいてきた。
思わず後退りしそうになる私を前に、白い虎はスッと目を細める。
『ほらな、意気地なし』と嘲笑うかのように。

「君だって、気づいているだろう?自分に『光の乙女』の所持者は……聖女は務まらない、と」

「っ……」

 初対面にも拘らずズケズケと土足で踏み込んでくる聖獣に、私は苛立ちを覚える。
と同時に、『嗚呼、図星だ』と歯軋りした。

「君はとても平凡で、人を引っ張っていける力も優しく包み込む心もない。端的に言うと、聖女に向いていない」

「……」

 ぐうの音も出ないほどの正論だ。
確かに私は聖女に……ヒロインに向いていない。
そんなことは誰より一番分かっている。自覚している。
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