お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

平凡な私でも《ルーシー side》

 ギュッと強く手を握り締め、私は思わず俯いた。
久々に感じる無力感に打ちひしがれながら。

 最近はずっと傍に朱里達が居てくれたから、何でも出来そうな気がしていたけど、私一人じゃ……何も出来ない。
本物のヒロインのような勇気や優しさは、持ち合わせていないんだ。
だから────

「────私はヒロイン(聖女)として、ここに来た訳じゃない。ただの一人の人間として、自分と大切な人達を守るために必要なものを取りに来たの」

 聖なる杖をただの道具や手段として扱い、私は本心を曝け出した。
『なっ……!?』と面食らう聖獣を前に、私は一歩前へ出る。

「平凡で結構。どうせ、私には人々を救うなんて崇高なこと出来ないから」

 野外研修のとき嫌というほど思い知らされた自分の本質を見据え、私は盛大に開き直った。
唖然としている聖獣に詰め寄り、至近距離で青い瞳を見つめる。
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