お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「い、いつの間に……!?」

 ポスポスと自身の胸元を叩き、聖獣は目を白黒させる。
衝撃のあまり固まる白い虎を前に、私は

「そのモフモフに杖を隠しているのはゲームで知ってんのよ、バーーーカ!」

 と、叫んだ。
『な、なんだと!?』と狼狽える聖獣を置いて、私はぐんぐんスピードを上げていく。

 本当はこんな窃盗まがいの真似、したくなかったんだけど……まあ、受け渡しを渋るあっちが悪いよね。
本来の持ち主はヒロイン()なんだし、問題ないでしょう。

 『大体、試練って何よ?』と文句を言いつつ、私は出口を目指す。
────と、ここで後ろからけたたましい足音が聞こえてきた。

「おい!そこ、止まれ!まだ話は終わっていない!というか、こんな展開認めない!」

 物凄い速さで距離を詰めてくる聖獣は、『色々おかしい!』と批判する。
力ずくで杖を取り戻す気である白い虎に、私はニッコリと微笑んだ。
< 527 / 622 >

この作品をシェア

pagetop