お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「さて、そろそろ帰ろうか」

 『長居は無用だ』と言い渡すレーヴェンに、私達は賛同した。
もうすぐ夕暮れということもあり、直ぐに荷物をまとめて城へ向かう。
朱里の転移魔法を用いて。
やっぱりこれが一番早いし、安全だから。
『本当、便利だよね〜』と思いつつ、私達はいつぞやの会議室へ足を運ぶ。

 そこには、もうグレンジャー公爵やノクターン皇帝陛下の姿があり……ピリピリとした空気を放っている。
そりゃあ、そうだ────これから、魔王戦の最終打ち合わせを始めるんだから。
『ニコニコしていられる余裕はないだろう』と考える中、私達はそれぞれ席に着く。
と同時に、ノクターン皇帝陛下が少しばかり身を乗り出した。

「ルーシー嬢、例のものは?」

「こちらに」

 聖なる杖をテーブルの上に置くと、ノクターン皇帝陛下は僅かに眉尻を下げる。

「では、本当にこれで……全て揃ったんだな」

「はい。あとは魔王に戦いを挑み、勝つだけです」

「……そうか」

 じっと杖を見つめ、ノクターン皇帝陛下は複雑な表情を浮かべた。
帝国の主としては喜ぶべきことなんだろうが、レーヴェンの父親としては心配で堪らないのだろう。
それは朱里やニクスの父であるグレンジャー公爵や、リエートの兄であるクライン小公爵も同じだった。
『ついに我が子を戦場へ送り出す時が来たのか』と落胆する彼らを他所に、ノクターン皇帝陛下は一つ深呼吸する。
と同時に、表情を引き締めた。

「────これより、魔王討伐作戦の最終確認を行う」
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