お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「では、作戦通り────マーキングでゲートを開きます」

 幸か不幸か、学園祭で魔王の素顔を確認出来たため、一番着実な方法を取る。
そして、いつものように転移魔法を行使していると、部屋の奥からノクターン皇帝陛下が姿を現した。
わざわざ見送りに来てくれたのか、少し寂しげな表情を浮かべている。
『もしかしたら、これが最後になるかもしれないものね』と思案する私の前で、陛下はそっと目を伏せた。

「君達には、随分と重いものを背負わせてしまった。大人として、これほど情けないことはない。だが、今はもうそんなことを言っていられる段階じゃないだろう。だから────」

 そこで一度言葉を切ると、ノクターン皇帝陛下は真っ直ぐにこちらを見据える。

「────ただ、君達の無事を祈っている。一人も欠けることなく、全員で帰ってきなさい」

 謝罪も悲嘆も呑み込み、ノクターン皇帝陛下は夢物語を語った。
不可能に近い願いだと分かっていながら、『皇命だ』と宣う。
最後の最後で絞り出した彼の本音に、私達はただ

「「ご用命賜りました」」

 と、(こうべ)を垂れた。
どのような結末を迎えるかはシナリオを知る麻由里さんですら分からないが、私達は最後まで全員生還を諦めない所存。
これは何度も話し合って、確認し合って、誓い合って決めたことだから。
< 536 / 622 >

この作品をシェア

pagetop