お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「野外だから、魔法の効果が多少薄まっているんじゃないかな?」

「だからといって、アレはさすがに異常でしょう……」

 聖なる杖で魔王を示しながら、麻由里さんは『あんなの化け物じゃん!』と叫んだ。
すっかり出鼻をくじかれてしまい、悶々としている彼女の前で、兄はスッと目を細める。

「でも、全く利いていない訳ではなさそうだぞ。ほら、よく見てみろ────手が少し凍っている」

「「「!!」」」

 ハッと息を呑む私達は慌てて魔王の手元に注目し、『おお!』と声を漏らした。
だって、兄の言う通りだったから。
まあ、致命傷には程遠いけど。

 『どうせ、死なないだろう』と思って、放っておいているのかな?

「ったく、余裕綽々だなぁ。俺達の攻撃なんて、屁でもないって感じじゃん」

 『舐められている』と不満を零すリエート卿に、レーヴェン殿下は小さく肩を竦める。

「でも、こっちの方がやりやすくていいじゃないか」

「ですね。最初から全力で来られて、為す術なく敗北するよりかはマシです」

 『舐めプを逆手に取って、頑張ろう』と主張し、麻由里さんは杖の先端を地面に叩きつけた。
かと思えば、大きく深呼吸する。

「昨日の最終打ち合わせでも話しましたが、私達のやるべきことは────魔王の封印(・・)です」
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