お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 なら、私もギフトを使おうかな?

 四つあるギフトを脳内で思い浮かべる中、兄は冷気を圧縮した矢を放つ。
それも、二十本近く。
『あれって、触れるだけ凍りつく代物じゃなかった?』と考えていると、矢は見事魔王に命中。
一瞬にして、氷像と化した────だが、しかし……

「まあ、悪くなかったよ」

 魔王は身じろぎ一つで氷を割った。
刺さった矢を慣れた様子で引き抜き、ポタポタと赤い血を流す。
それを見て、私は思わず動揺してしまった。

 少なからず、相手を傷つけることには分かっていたのに……。

 ドクンッと激しく脈打つ心臓を前に、私は深呼吸する。
『ちゃんとして』と自分に言い聞かせながら。

「それにしても、妙だね……全く反撃してこないなんて」

 絶え間なく続く兄の攻撃と受け身の魔王を見比べ、レーヴェン殿下は頭を捻った。

「『千里眼』で三百六十度あらゆる方向から、動向を監視しているけど、今のところ攻撃する素振りはない。『心眼』も同様だ」

 ────心眼とは、レーヴェン殿下の持つもう一つのギフトで、人の感情を色で見分けられる。
つまり、戦う意欲や反撃する意思があればその前兆を感じ取れるのだ。
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