お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「危なかった……」

 魔王の放ったであろう雷の槍を蔓で叩き落とし、レーヴェン殿下は一つ息を吐く。
『千里眼と心眼がなきゃ、対応し切れなかった』と零す彼を他所に、猫さんは魔王の元まで飛んで行った。
聖なる杖を口で咥えながら。

「ご苦労様、チェルシー」

 猫さんごと膝の上に置き、魔王は聖なる杖へ手を伸ばす。
と同時に、兄とリエート卿が強力な魔法を放った。
迫り来る氷塊と風の刃を前に、魔王……ではなく、猫さんが反応する。
『シャー!』と威嚇して口から炎を放つ猫さんは、兄達の攻撃を見事相殺。
おかげで、魔王の行動を止められなかった。

「申し訳ないけど、これは────破壊させてもらう」

 そう言うが早いか、魔王は手に持った聖なる杖を────握り潰す。
『なっ……!?』と声を漏らす私達の前で、彼は杖を真っ二つにした。

「う、嘘……!?伝説級のアイテムを壊すとか、アリ!?」

 『チートじゃん!』と嘆く麻由里さんは、頭を抱え込んだ。
混乱状態に陥る彼女を前に、私達は顔を見合わせる。
『どうする?』と問い掛け合うように。
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