お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「────この人生を終わらせてほしいからさ」

 一瞬の躊躇いもなくそう言い切った魔王に、私達はなんと返せばいいのか分からず……押し黙る。
彼の不可解な言動から何となくそんな気はしていたが、いざ言われてみると何とも言えない気持ちになって。
虚無感にも似た感情を抱く中、魔王はチラリと麻由里さんを見る。

「これまでも僕を倒そうとした勢力は多く居たけど、君ほど迷いのない子は居なかった。まるで全てを知っているかのように、備えていただろう?だから、君なら僕を殺せるんじゃないかと……救ってくれるんじゃないかと思ったんだ」

 『君は希望の光だ』と語り、魔王はトントンと玉座の肘掛けを指で叩いた。

「なあ、本当に────封印以外、打つ手はないのかい?」

 『僕をガッカリさせないでくれよ』とでも言うように問い掛け、じっと麻由里さんを見つめる。
その目はどこか淀んでいて……縋ってくるような脆さを孕んでいた。
『もう君しか居ないんだ』と切実に訴え掛けてくる彼を前に、麻由里さんは瞳を揺らす。

「……どうして、そんなに死にたいの?貴方の目的は……夢は世界の滅亡でしょう?」

 『志半ばのくせに死んでいいのか』と疑問を呈する麻由里さんに、魔王はスッと目を細めた。

「僕の目的はここに転生(・・)してきた時から、変わらない────死んで楽になること。ただ、それだけだ。世界の滅亡はその手段の一つに過ぎないんだよ」

「どういうこと……?」

 怪訝そうに眉を顰める麻由里さんは、意味不明だと示す。
すると、魔王はそっと目を瞑った。

「じゃあ、少しだけ昔話をしようか────僕はね、元々世界を救う英雄(・・・・・・・)だったんだよ」
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