お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

英雄のなりの果て《ハデス side》

◇◆◇◆

 僕は神に選ばれた清らかな魂の一つで、あらゆる世界を渡り歩いていた。
転生や召喚、憑依などを用いて。
その目的はいつだって、同じ────世界の救済。

「「「英雄ハデス様、万歳!」」」

 この合唱を聞くのは、何度目だろうか……。

 民衆の歓声と華やかに彩られた王都を眺め、僕は馬に乗って前へ進む。
最初の頃は嬉しく……そして、誇らしく感じたこの光景も、今では味気なく感じる。
別に見飽きたとか鬱陶しくなってきたとか、そういう訳じゃない。
ただ────疲れてしまったのだ。人を救う人生に……その他大勢のために、身を削る英雄という在り方に。

 もうゆっくり休みたい……普通の人間として、生きたい。

 心身をすり減らし、疲れ果ててしまった僕は祝いの宴も仲間の誘いも全て断って宿へ戻った。
そこで今回苦楽を共にした剣を、自身の首元へ突きつける。
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