お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「どんな方法でもいい。僕を殺してくれ。そうすれば、この世に平和は訪れる」

「……平穏に生きる、という選択肢はないのですか?」

 『死ぬことでしか安息を得られないのか?』と問い、私はじっと夜の瞳を見つめる。
出来ることなら、誰にも死んでほしくないから。
ここまで拗れてしまった以上、手を取り合って生きていくのは無理かもしれない。
でも、互いの領域を犯さずにそれぞれの人生を歩むことは出来るんじゃないか。

「英雄でも魔王でもない、ただのハデスとして生きていくことは……」

「君は本当に綺麗事が好きだね。本物のリディア・ルース・グレンジャーとは、大違いだ」

 『あの子はもっと現実的だった』と語り、魔王は一瞬にして目の前まで来る。

「まるで、昔の僕を見ているようだよ。理想ばかり追い求めて、現実を見ようとしない」

 私を通して過去の自分を見ているのか、魔王は顔色を曇らせた。
自己嫌悪とも自己憐憫とも捉えられる表情を浮かべ俯く彼に、私は

「でも、貴方はその理想を叶えられたんですよね?だから、英雄と讃えられていたのでしょう?」

 と、問い掛ける。
すると、魔王はフッと笑みを漏らした。
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