お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

泥を被るのは

 『直接関わる機会なんて、なかったものね』と考えていると、リディアが口元に手を当てる。

「とりあえず、ギフトの『分身』を使ってくれる?」

「えっ?」

 何故ここでそのギフトの名前が出てくるのか分からず、私は目を白黒させる。
妖精結晶があるとはいえ、ギフトの同時発動なんてしたら直ぐに力を使い切ってしまうから。
つまり、『嘆きの亡霊』によって呼び出せたリディアと長く話せなくなるということ。
『せっかく会えたのに、それは……』と渋る私の前で、リディアはスッと目を細めた。

「いいから、早く。さすがに本体へ憑依(・・)する訳には、いかないでしょう」

「!!」

 つまり、分身体に憑依出来るってこと!?なら!

 『スキンシップも取れるかも!』と目を輝かせ、私はギフト『分身』を発動。
これは自分そっくりの存在を作り上げる能力で、知識や身体能力なども全く同じ。
また、幻ではなく実体ありなので触れ合うことだって出来た。
自身の影からコポコポと音を立てて出てくる分身体を前に、私はちょっとワクワクする。
『無事に憑依出来たら、まずは何をしよう』と浮き立つ中、私……というか、リディアそっくりの分身体が完成。
身長も体重もバッチリ再現されているソレに、リディアは手を翳した。
かと思えば、何やらブツブツと呪文を唱える。
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