お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「……分かりました。でも、聞くだけですよ?」

「ああ、もちろん」

 『話の分かるお嬢さんで助かるよ』と言い、男性は足を組んだ。

「単刀直入に言うね。君の願いを何でも一つ叶える代わりに────ギフトを一つ分けてほしい」

「はい……?」

 あまりにも突拍子もない話に困惑してしまい、私は右へ左へ視線をさまよわせる。
『何を言っているの?この人は……』と戸惑っていると、彼はゆるりと口角を上げた。

「実はここ数日、君の様子を監視していたんだけど────君、周りに腫れ物扱いされているだろう?」

「……」

 嘘でも『そうじゃない』とは言えず……つい口を噤んでしまう。
『こんなの相手の思う壷でしょう……』と落胆する中、男性はトントンと指先で膝を叩いた。

「僕の言う“願い”には、復讐も含まれる。だから、この家を没落させることだって……」

「結構です。私は別に家族を苦しめたい訳じゃないので」

 聞くに絶えない提案を遮りキッパリ断ると、男性は驚いたように目を剥いた。
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