お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「じゃあ、他に願いはないのかい?何でもいいから、言ってごらん」

 『ここには君と僕しか居ないしさ』と述べ、本心をさらけ出すよう促してきた。
が、これと言って願いはなく……私は首を横に振る。

「ありません」

「本当に?」

「はい」

「いやいや、これだけ辛い環境に置かれているんだから、一つくらいあるだろう」

 『君は現状に満足しているのか』と問い、男性は前のめりになった。
何がなんでも取り引きを進めたい様子の彼に、私は内心溜め息を零す。
『さっさと諦めればいいのに』と思いつつ、顎に手を当てて考え込んだ。

「そうですね……強いて言うなら────」

 そこで一度言葉を切ると、私は自身の手元に視線を落とす。

「────ここから、消えたい」

 自分でも驚くほど胸にストンと落ちる本心(願い)に、目を見開いた。

 ああ、そっか……私はずっと前から────消えたくて、しょうがなかったんだ。
< 579 / 622 >

この作品をシェア

pagetop