お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『かなり大規模な捜索になるだろうから』と思案しつつ、私はゆっくりとベッドを降りる。
そして、椅子に座る男性の前まで足を運んだ。

「私は周りに迷惑を掛けずに消えたいのです。可能でしょうか?」

 いつの間にか取り引きへ応じる姿勢を見せてしまった私に、男性はゆるりと口角を上げる。

「手段を選ばなければ、可能だよ」

「その手段というのは……?」

「それは取り引きの返事を聞いてから────と言いたいところだけど、さすがに可哀想か」

 『何も知らずに判断させるのは酷』と主張し、男性は小さく肩を竦めた。
かと思えば、私の額をツンッと人差し指で軽く押す。

「簡単に言うと、君の体に別の誰かを憑依させるんだよ」

「えっ……?」

「これなら、誰にも迷惑を掛けずに消えることが出来る。まあ、その代わり君は死んじゃうけど」

「それは大した問題じゃありません……!重要なのは私の体に憑依した方のことで……!」

 『その方に迷惑なんじゃないか』と心配する私に、男性はクスリと笑みを漏らした。
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