お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 見本の布やカタログなどを眺めながら仕立て屋のデザイナーに指示を出し、具体的なことを決めていく。
その様子をぼんやり眺めていると、デザイナーが持ってきたドレスの中から一番要望に近いものを見せた。

「色は違いますが、ドレスの形はほぼ同じです。一度試着していただき、気に入りましたら要望通りの布と色でお作りします。どうでしょう?」

「ええ、それでいいわ。それじゃあ────着替えてきてちょうだい」

 後半部分は私に向ける形で言い、母はニッコリ微笑む。
『きっと、リディアによく似合うわよ~!』と述べる彼女の前で、私は席を立った。
仕立て屋の従業員に促されるまま隣の部屋へ移動し、服を着替える。
体型に合わせて裾の長さなどを調整してもらい、元の部屋に戻ると、母や兄は目を剥いた。

「まあ~!とっても綺麗よ、リディア!」

「……悪くないんじゃないか?それなりに見えるぞ」

「ありがとうございます」

 二人から『似合っている』との太鼓判を受け、私はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
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