お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ニクスのやつ、凄い形相で睨んでくるんだけど……ファーストダンスは譲ってやったんだから、ちょっとは機嫌直せよ」

 デビュタントパーティーを彷彿とさせる役割分担について言及し、リエート卿は溜め息を零した。
『祝いの席で殺気立つなよ……』とボヤく彼を他所に、私も兄の方へ視線を向ける。
すると、兄は少しだけ表情を和らげた。

『すぐ攫いに行くからな』

 と口の動きだけでこちらに伝え、兄はスッと目を細める。
────と、ここで衛兵の大声が鼓膜を揺らした。
反射的に後ろを振り返ると、観音開きの扉が開く様子を目にする。

「デスタン帝国の太陽ノクターン・ゼニス・デスタン皇帝陛下と、レーヴェン・ロット・デスタン皇太子殿下のご入場です!」

 その言葉を合図に、ノクターン皇帝陛下とレーヴェン殿下は会場内へ足を踏み入れた。
サッとお辞儀する帝国貴族や会釈程度に頭を下げる他国の王族達を前に、二人は前へ進んでいく。
そして玉座に辿り着くと、おもむろに腰を下ろした。
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