お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「こう言ってしまうと、その……お兄様にとっては、残酷に聞こえるかもしれませんが」

「構わない。教えてくれ」

 『優しい嘘も、遠慮も要らない』と述べる彼に、私は小さく頷いた。

「正直、お兄様のことは……ニクス様のことは────好きに、なりかけました」

「!!」

 大きく目を見開き、兄は思い切り腰を引き寄せた。

「本当か?」

「はい。兄であることをやめてからのニクス様は、私の横に並んで物事を考えてくれるようになりましたから。ただ────」

 そこで一度言葉を切ると、私はそっと眉尻を下げる。

「────苦労を分けてはくれなかった」

 要領がいいからこそ全部一人で抱え込もうとする兄の習性を指摘し、私は足を止めた。
最初のワルツが、ちょうど終わりを迎えたから。
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