お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「……分かった。僕の気持ちに真剣に答えてくれて、感謝する」

「いえ、こちらこそ。私を好きになってくれて、ありがとうございます」

 正直ニクス様の気持ちには驚いたけど、とても嬉しかった。
これは紛れもない事実で、本心。

 じんわりと胸に広がる温かさと他人の好意を拒絶した罪悪感に、私は目を細める。
『これが人の感情の重み』と実感する私を前に、兄はフッと笑みを漏らした。

「それじゃあ、僕は兄に戻るとする」

 こちらに負担を掛けないためかすんなりと失恋を受け入れ、兄は優しく私の頭を撫でる。
『もういいよ』とでも言うように。

「さっさとリエートのところに行け。僕はちょっとバルコニーに出てくる」

「はい、分かりました。では、また後ほど」

 正直、今の兄を一人にするのは心配だが……振った本人が傍に居て、慰めるのはなんだか違う気がして踵を返す。
後ろ髪を引かれる思いでリエート卿の元に戻り、私は不安に駆られながら二度目のダンスへ突入した。
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