お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「慰めなら、結構ですよ」

「おや?強がりかい?」

「いいえ────同じく失恋した殿下への配慮です」

「手厳しいな、君は本当に」

 思わずといった様子で頬を引き攣らせるレーヴェン殿下に、マユリは僅かに目を剥く。

「あっ、やっぱりレーヴェンも朱里のこと好きだったんだ」

 独り言のつもりなのか敬称を忘れているマユリは、まじまじとレーヴェン殿下の顔を見つめた。

「殿下は告白しなくていいんですか?というか、アプローチ自体あまりしてませんでしたよね?」

 不思議そうに首を傾げつつ、マユリはレーヴェン殿下を質問攻めにする。
『何で?』『どうして?』と繰り返す彼女を前に、殿下は苦笑を漏らした。
適当にはぐらかすつもりなのか、マユリを宥めるように肩を叩く────が、僕の存在を思い出すと少しばかり黙り込んだ。

「……まあ、君達になら話してもいいか」

 半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、レーヴェン殿下は顔を上げた。
かと思えば、手すりに背を預けてこちらに向かい合う。
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