お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 あっ、こいつ酔っているな。

 ようやくマユリの状態を理解した僕は、素早く背後へ回り手刀を落とす。
首裏に強い衝撃を受け気絶する彼女を受け止め、嘆息した。

「こいつのせいで、色々ぶち壊しだ」

「でも、おかげさまで悲しみは吹き飛んだよね」

「感動と一緒に、ですけどね」

「まあまあ、いいじゃないか。暗い気持ちを引き摺るよりかは、さ」

 ハンカチでマユリの涙を拭きつつ、レーヴェン殿下は『許してあげなよ』と促す。
困ったように笑う彼を前に、僕は小さく肩を竦めた。

「それもそうですね。今回はこいつの馬鹿さ加減に、ちょっと救われました」

 『許します』と主張し、僕はマユリをそっと抱き上げる。
子供のようにぐっすり眠る彼女を一瞥し、レーヴェン殿下と共にバルコニーを出た。
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