お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『乾杯の挨拶なら、何度も練習したから大丈夫』と自分に言い聞かせ、肩の力を抜いた。
と同時に、一歩前へ出る。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。グレンジャー公爵家の長女リディア・ルース・グレンジャーです。私は────」

 そこで一度言葉を切ると、後ろに控える家族へチラリと視線を向けた。

「────多くの人に支えられ、助けられたおかげで七歳の誕生日を無事迎えることが出来ました。凄く凄く感謝しています。また、皆さんとこうして出会えたこと、とても嬉しいです。この縁が末永く続くことを祈ります。それでは、心行くまでパーティーをお楽しみください────乾杯」

 果実水の入ったグラスを軽く持ち上げ、私は乾杯の挨拶を終えた。
すると、あちこちから『乾杯!』という掛け声とグラス同士のぶつかる音が聞こえる。

「とても、聡明な子ね。まだ七歳なのにしっかり挨拶をこなしていて、偉いわ」

「やっぱり、グレンジャー公爵家の人間は特別なのかしら?」

「あれは将来有望だなぁ」

「今のうちに顔を覚えてもらった方がいいかも」

 私という人間を高く評価する招待客達は、挨拶の列へいそいそと並ぶ。
リディアの優れた容姿とスペックのおかげか、出だしは好調のようだ。
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