お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『少年漫画みたいでいい』と頬を緩める中、リエート卿が何かを思い出したかのように顔を上げる。

「あっ!そうだ、これ。ただのアクセサリーだけど、良かったら使ってくれ」

 ずっと右手に持っていた小さな箱を差し出し、リエート卿はニッと笑った。
『改めて、誕生日おめでとう』と述べる彼を前に、私はプレゼントを受け取る。
そして中を見ていいか確認してから箱を開けると、四葉のネックレスが出てきた。

「四葉のクローバーは、幸運を運んでくれるんだぜ」

「安直だな」

「なんだと〜?」

 『喧嘩を売っているのか』と口を八の字にするリエート卿に、兄はニヤリと笑う。

「だが、悪くない。お前にしては、よくやった」

 『筋肉バカのことだから、剣でも持ってきたのかと思っていたからな』と言って、肩を竦めた。
『見直した』と感心する兄に対し、リエート卿は鼻高々。
『そうだろう、そうだろう』と言わんばかりに何度も頷き、顎を逸らした。
すっかり得意げになる彼の前で、私は内心苦笑を浮かべる。

 お兄様の手のひらで、転がされているわね。

 『素直な性格なのだろう』とリエート卿の評価を改め、私はクローバーのネックレスをそっと撫でた。
< 72 / 622 >

この作品をシェア

pagetop