お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
◇◆◇◆

 ────大成功を収めた七歳の誕生日パーティーから、二週間。
私は頂いたプレゼントのチェックやお礼に追われていた。

 全てのプレゼントに対応する必要はないのだけど、やっぱり何か返したくて。
貰いっぱなしは、性に合わない。
まあ、こうやって一人一人にお礼出来るのは今回だけでしょうけど。
来年の誕生日までにはデビュタントを迎えている筈だから、規模も人数も今の倍になる。
そうなると、私一人では捌き切れない。
きっと、来年からは使用人の選んだ返礼品と定型文の入った手紙を送るだけになるだろう。

 『実際、他の家族はそうしているらしいし』と肩を竦め、私は自室にある執務机へ向かう。
手には、父から誕生日プレゼントとして貰った羽根ペンが。
『これ、凄く書きやすいのよね』と上機嫌になる私は、お礼の手紙をしたためる。
────と、ここでうっかりインクの入った瓶を倒してしまった。

「あっ……」

 ツーッと広がっていくインクの海に、私は一つ息を吐く。
そして、上半分が黒く染まった便箋とインクの波に晒されながら一切汚れていない本を見つめた。
幸い、机の上にあったものはこれだけなので被害は少ない。

「お兄様から頂いた本が、特別製で助かったわ」

 誕生日プレゼントとして贈られた魔法の本を手に取り、私はホッとする。
実はこれ、魔法を込められた加工物────魔導具の一種で、保全加工が施されているらしい。
そのため火で炙っても燃えないし、泥水に浸しても汚れない。
まさに最強の本なのだが……内容は初心者向けで、至って普通。
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