お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 ドタバタと忙しなく廊下を行き交う神官達を横目に捉えつつ、私達は目的地へ向かう。
時々誰かにぶつかりそうになったものの、兄のエスコートのおかげで無事儀式の間に辿り着いた。
何かの文字が書き込まれた白い扉を前に、兄はそっと手を離す。

「ここから先は、リエートと二人で行け。いいか?何かあったら、大声を上げろ。直ぐに駆けつける」

「はい、お兄様」

 銀の杖を両手で握り、私はコクンと頷いた。
『いい子だ』と頭を撫でる兄に微笑み、私はリエート卿へ向き直る。

「よろしくお願いします」

「ああ。と言っても、俺はあくまで案内役だけどな。洗礼式を取り仕切るのは、別の人。ニコラス大司教って言って、すげぇ優しい人だから安心しろ」

 『大抵のことは許してくれるから』と言い、リエート卿はポンポンッと私の肩を叩いた。
かと思えば、そっと手を持ち上げ……

「では、参りましょうか?レディ」

 と、悪戯っぽく笑う。
おかげで、すっかり緊張が溶けた。
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