お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『リディアですら習ってない文字よね?』と頭を捻り、まじまじと見つめる。
系統は西洋に近いが、文章を読む方向は上から下……つまり、縦書きだった。
『なんだか、とっても不思議な言語ね』と考えつつ、私はニコラス大司教にお礼と挨拶を口にする。
そして、リエート卿に連れられるまま儀式の間を後にした。
外で待機していた兄とも合流し、私は中央神殿の廊下を歩く。

 お兄様はさっきの光……というか、儀式の結果に興味津々のようだけど、さすがに人前では聞けないみたい。
誰かに悪用でもされたら、大変だものね。
貴族の情報は高く売れるって、言うし。

 兄より徹底的に叩き込まれた危機感を見事発揮し、私は杖をギュッと握り締めた。
なんだかスパイに狙われるエージェントのような気分になり、ちょっとだけ楽しくなる。
『この機密情報を何としてでも守り抜くのよ!』と自分に言い聞かせる中、私達は建物を出た。
すると────ちょうど向こう側から、両親が血相を変えて駆け寄ってくる。

「「リエートくん……!」」
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