お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 私や兄には目もくれず、リエート卿の前で足を止めた二人はかなり焦っている様子だった。
即座に『只事ではない』と察し静かになる私達を前に、両親は若干表情を強ばらせる。
母に関しては、顔面蒼白になっていた。

「あのね、さっきクライン公爵家から封書が届いて……その、もうすぐ貴方の元にも届くと思うけど……でも、このことは早く伝えた方がいいと思ってね……あの……」

 取り乱すあまり、しどろもどろになる母は目に涙を浮かべる。
尋常じゃない彼女の様子に、リエート卿はもちろん……私や兄まで不安を覚えた。
『一体、何があったんだ!?』と顔を見合わせる中、父がおもむろに口を開く。

「落ち着いて、聞いてほしい。今、クライン公爵家に────魔物の大群が押し寄せてきているらしい」

「「!?」」

 『魔物』と聞くなりサァーッと青ざめたリエート卿と兄は、目を見開いて固まった。
徐々に恐怖へ染まっていく彼らの横顔を前に、私はコテリと首を傾げる。
だって、魔物という存在を今の今まで知らなかったから。
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