お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 本と資料がこんなにたくさん。次期当主教育って、思った以上に大変なのね。

 今更ながら『いきなり訪問して良かったのか』と考えつつ、私は来客用のソファへ腰を下ろす。
小公爵も空いている席へ腰掛け、こちらを見据えた。

「それで、用件はなんだ?」

 一も二もなく早速本題を切り出す小公爵に、私は内心苦笑を漏らす。
だって、とても兄妹の距離感とは思えなかったから。
『想像以上にドライな対応……』と困惑しながら、横髪を耳に掛けた。

「えっと、実は勉強を教えてもらいたくて」

「勉強?そんなの家庭教師に聞くなり、自習するなりしろ」

「そうしたいのは山々なのですが、魔法の分野は今いらっしゃる家庭教師の先生や自習じゃどうにもならなくて」

 ここに来る途中で考えておいた訪問理由を口にし、私はチラリと相手の顔色を窺う。

 一応、嘘は言ってない……今いらっしゃる家庭教師の先生は礼儀作法やテーブルマナーを主に教えている方だし、自習では色々と限界があるため。
別に今すぐ魔法を学ばないといけない理由はないけど、自然と交流するには最適の口実と言えた。
とはいえ、多忙を極めている小公爵にこんなことを頼むのはちょっと心が痛むけど。

 『今からでも、要求を撤回するべきか』と思い悩む中、彼は顎に手を当てる。
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