お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「私がリエート卿をクライン公爵家まで、連れていきます。そして、必ず────皆で(・・)帰ってきます」

「なっ……!?」

 衝撃のあまり言葉を失う父は、『正気か……!?』とでも言うように私の肩を掴む。
目を白黒させながら愕然とする彼の前で、私は確かな意志と覚悟を瞳に宿した。

「クライン公爵家の方々の救助を断念していたのは、時間と距離の問題で間に合わないからですよね?なら、その問題さえ解決出来れば……」

「だ、ダメだ!危険すぎる!」

「そうよ!リディアはまだ子供なのに!」

「戦地の過酷さを知らないから、そんなことが言えるんだ!」

 グレンジャー公爵家の面々は弾かれたように反論を口にし、首を左右に振った。
断固拒否の姿勢を見せる彼らの前で、私はどう説得しようか悩む。
そんな時────リエート卿が、足元の氷を突き破った。
陽の光を浴びて少し溶けていたのか、それとも今まで本気を出していなかったのか……真偽は定かじゃないが、彼はこれで自由の身である。
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