お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
クシャリと顔を歪める彼らの前で、私も頭を下げる。

「お父様、お母様、お兄様。どうか、お願いします。クライン公爵家の窮地に駆けつけることを、許してください」

 『見捨てることなんて出来ません』と懇願し、私はじっと返事を待った。
すると、どこからともなく溜め息を零す音が聞こえる。

「……分かった。転移魔法の使用とリディアの同行を許可する」

 渋々といった様子で、父はリエート卿の願いを聞き入れた。
『ありがとうございます……!』と涙ながらに礼を言う卿を前に、父は更に言葉を続ける。

「ただし、私も一緒に行く」

「いえ、父上は屋敷に戻って部隊の編成を行ってください。魔物の大群を完全に駆除するとなると、絶対に人手が足りなくなるので。クライン公爵家の救助には、僕が向かいます」

「えっ?子供達だけで!?そんなのダメよ!ニクスは残りなさい!ここは私が……」

「ルーナこそ、残るべきだ!まだ体調も万全じゃないだろう!」

 『誰が同行するか』で揉め始めたグレンジャー公爵家の面々は、ああでもないこうでもないと言い合う。
全員尤もらしい言い分を振り翳し、一歩も引かぬ姿勢を見せた。
『このままじゃ、日が暮れそう』と心配する中、兄が両親を言い負かす。
なんだかんだ一番口が立つため、あれこれ理屈を捏ねて二人を納得させたらしい。
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