お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「よし、成功だな。じゃあ、一斉に通過するぞ。これは術者本人であるリディアが一緒じゃないと、通れないからな」

 満足そうに目を細める兄は私の頭を撫でながら、指示を出す。

異空間に取り残される(はぐれる)可能性もあるから、念のため手を繋ぐぞ。リエート、今のうちに魔法の準備をしておけ」

「おう」

 『任せろ』とでも言うように腕捲りし、リエート卿はニッと笑う。
私の手をそっと握り『準備万端だ』と示す彼の前で、兄は後ろを振り返る。

「それでは行って参ります、父上母上」

「ああ。救助隊を引き連れて、私も直ぐに駆けつける」

「三人とも、気をつけてね。無茶だけはしちゃダメよ」

 『行ってらっしゃい』と送り出す両親に、兄は優雅にお辞儀する。
『必ず無事に帰ってきます』と言い残し、ゲートに向き直った。
かと思えば、私の空いている方の手を掴み、一歩前へ進む。
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