お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『酔っちゃったのかな?』と首を傾げる私の横で、リエート卿が手を前に突き出した。
と同時に、落下スピードは落ち、空気の膜で手厚く保護される。
感覚としては、エレベーターに乗っている時に近かった。
凄く安定している。

「やれば、出来るじゃないか」

「そりゃあ、ニクスに勝つために相当魔法を練習したからな。まさか、こんな形で披露する羽目になるとは思わなかったけど」

 感心したように目を見開く兄に、リエート卿は小さく肩を竦める。
────と、ここで私達は無事地上へ降り立った。
役目を終えた空気の膜がパンッと弾ける中、私は手で口元を押さえる。

 重心が安定すれば、回復するかと思ったけど……さっきより、酷くなっている気がする。
一体、どうして?リディアの体は至って、健康なのに。

 吐き気と倦怠感に襲われ、目を白黒させる私は『振動に弱い体なのかな?』と考えた。
でも、それにしては症状が重すぎる。
『なんだか、動悸や目眩もするし……』と四苦八苦していると、兄が身を屈めた。

「やっぱり、こうなったのか」

 そう言って苦笑いする彼は、魔術で周辺の温度を少し下げる。
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