お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「魔力コントロールの訓練を受けてない人間が、一度に大量の魔力を消費すると体調不良になるんだ」

 状態異常の原因を明かすと、兄は冷静に私の脈を測った。
と同時に、眉尻を下げる。

「問題なければ、もう一回転移魔法を使って帰らせようと思ったんだが……難しそうだな」

 『下手したら死にかねない』と判断し、兄はこのまま連れていくことを決意した。
いつになく優しい手つきで私に触れ、スッと目を細める。

「少し休めば良くなるが、今はそんな暇ないからしょうがない」

 『少し我慢してくれ』と言い、彼は私をお姫様抱っこした。
『寝ていてもいいからな』と優しく声を掛ける彼の横で、リエート卿が堪らず口を開く。

「それなら、俺が……」

 ここに来る手段として私を利用した負い目があるからか、彼は『自分にやらせてくれ』と申し出た。
『俺のせいで、こんな……』と顔を歪め、グッタリする私を辛そうに見つめている。
今にも罪悪感に押し潰されそうな彼を前に、兄は『はぁーーー』と長い長い息を吐いた。

「いや、お前は剣士だろ。両手が塞がっている状態じゃ、満足に戦えない。ここは魔導師の僕がリディアを持つべきだ」

 『冷静に考えろ』と言いながら、兄はガンガンとリエート卿の足を踏みつける。
少々手荒だが、これが彼なりの活の入れ方なんだろう。
『大体、お前なんかに妹の世話を任せられるか!』と怒鳴り、フンッと鼻を鳴らした。
かと思えば、前を向く。
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