契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
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自宅の前で深々と頭を下げる彼女を目に焼き付け、ゆっくりと車を出す。
やはり、別れ際にエンゲージリングを渡して正解だった。
本当はディナーの席で渡すつもりでいた。
しかし、ふと気がついた。彼女の見せてくれた笑みを目に。
今ではない、と……。
ささやかでも誕生日を祝えたらと思って用意した席で、澪花と幸せなひとときを過ごすことができた。
喜ぶ顔が見たい、笑顔が見られたら──。
ただその思いだけしか頭になかった。
どうしたら彼女が笑ってくれるのか。
それを考える時間は心が弾み、それだけで幸福感を得られる。そんな経験はこれまでの人生でなく、不思議な感覚だった。
驚いたり、くしゃりと笑ってみたり、涙を浮かべてみたり、様々な表情を見せてくれただけで、あれこれ考えて良かったと思える。
同時に、もっと彼女を喜ばせたいという願望さえ芽生えた。
だからあの席で、エンゲージリングを渡すのを躊躇した。
今これを渡せば、この幸せなひとときが終わってしまう。壊してしまう。
契約結婚の関係だから、こんな風に祝ってもらえたんだ。そう、彼女に思われたくなかった。
自分で持ちかけた契約結婚なのに、こんなにも自分の首を絞めるとは思いもしなかった。
それでも、彼女との関係を繋ぎ止めるためにあの時の自分はこうするしかなかった。
後悔はない。
これから彼女の一番近くにいられる存在になるのなら、たとえ契約結婚だとしても構わない。
『ありがとうございます』
そう言ってはにかみ、きらりと光った一粒の涙が目の裏に焼き付いていた。