契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「申し訳ありませんでした。何事もなかったですか」
「え、あ、はい」
「エントランスまでお迎えに上がるべきでした」
どうやら、今エレベーターの中で声をかけられたことについて謝っているようだ。加賀さんはなにも悪くない。
「大丈夫です。すみません、ご心配をおかけして」
「彼らには厳重注意をしておきます。大変不快な思いをさせました」
そんな会話をしながら向かった最奥には、彫刻された重そうな木製の扉があり、加賀さんはその前でドアをノックした。
「失礼いたします。様がご到着されました」
加賀さんは中に声をかけ、私へ「どうぞ」と入室を促す。ドアを入ってすぐには観葉植物が目隠しのように置かれていた。
「失礼します」
部屋の中は温かく、爽やかなシトラス系の香りが鼻をかすめる。さっき、新居のマンションの蓮斗さんの書斎で感じたものと同じだ。
「寒い中悪かったな」
奥のデスクから立ち上がった蓮斗さんと顔を合わせる。出張に出かけて以来、こうして会うのは数日ぶり。自然と鼓動の高鳴りが始まる。
「いえ。出張お疲れ様でした」
背後から「社長」と加賀さんが声をかけてくる。「何かありましたらお呼びください」と言い残し、部屋を出ていった。