契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「今日はありがとう」
「いいタイミングね。入りましょ」
お義母様は待機する着物の女性スタッフについて店内奥へと歩いていく。
その後にお義父様も続き、蓮斗さんとふたり取り残されてしまった。
「どうしよう、ご挨拶もできなかったです、ごめんなさい」
身構えるも、完全にタイミングを失って初対面の挨拶ができなかった。
背中にぞくりと悪寒が走る。
「今の感じじゃ、挨拶する隙なんてなかっただろ。大丈夫だ、今から席についてすればいい」
私の背にそっと触れ、蓮斗さんは安心するような言葉をかけてくれる。
でも、早速失敗してしまった感は否めない。
そうこうしているうち、ご両親を案内していったスタッフが戻り、「橘様、こちらへどうぞ」と声をかけられた。
向かった席は、店舗最奥の個室。
スタッフが個室前で「どうぞ」と入室を促す。
蓮斗さんは私がパンプスを脱ぐのを待ってくれ、準備が整ったところでご両親のいる客室の襖に手をかけた。
蓮斗さんが一歩先に部屋に入り、私へ合図するように目を合わせる。
「失礼いたします」
頭を深々と下げたものの、自然と声が震える。
ゆっくりと顔を上げると、ご両親の目がこちらを見ていた。
蓮斗さんに続いて、ご両親の前の席にもう一度「失礼します」と言って腰を下ろした。