契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「申し訳ございません。おケガは」
私の手にあるグラスを抜き取り、男性は私を見下ろす。
目が合って、ドクンと自分の心臓が大きく音を立てた。
「あっ、ないです! 全くなにも」
男性は手にしたグラスをスタッフへと差し出す。スタッフは「申し訳ありません」と口にしグラスを受け取ると、丁寧に頭を下げて立ち去っていく。代わりに別のスタッフがやってきて、濡れた絨毯の処理を始めた。
「服を汚してしまったのは、こちらの不注意でもあります。こちらへどうぞ」
「え? あ、あの」
男性は私の背を押し、今さっき入ってきた会場入り口へと向かっていく。
周囲の人々の視線を集めていることに変な汗が背中にじわりと出てきて、どこを見ればいいのかわからず目が泳ぐ。
「衣装室は空室か」
会場を出ていく時に近づいてきたホテルスタッフと思わしき女性に、男性は慣れた様子で問いかける。女性は「はい、空いております」と答えた。
「使いたい。ヘアメイクもひとり手配してくれ」
「かしこまりました」
女性はテキパキと私たちを先導していく。
「あ、あの、私は大丈夫ですので」
「その状態では、パーティーに出席し続けるのは難しい」
「いえ、あの、私は──」