契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「こんにちは。お加減は、どうですか?」
お義母様は入ってきた私に一度視線を寄越し、そしてまた本に目を落とす。
今日もまた、ひと言も話してくれないのだろうと諦めの気持ちもわずかに感じながら、それでも笑顔で持ってきた花束をお義母様に見せた。
「お花、飾らせてください」
部屋のシンクに向かい、花瓶に持ってきた花束を活ける。
ビタミンカラーの花は、見ているだけで元気が出る色合いだ。
お義母様のベッドサイドに花束を持っていき、サイドテーブルへと花瓶を置いた。
「毎日毎日、よくめげずに通ってくるわね」
背中にお義母様の声が聞こえる。
これまで通ってきてもまともに話もしてくれなかったお義母様の声が聞こえ、思わず勢いよく振り返った。
「あんな酷い言い方をして、諦めるように言ったのに……」
小さく息をつき、お義母様は読んでいた本を閉じる。
私は黙ったまま、お義母様を見つめた。
広い病室に再び沈黙が落ちる。
また話すことはできないのかなと諦めかけた時、お義母様が静かに口を開いた。
「私も……あなたと同じだったのよ」
打ち明けるようなお義母様の声。黙ったまま耳を傾ける。
「私の家も、普通の一般家庭でね……反対されたわ。いざ結婚した後も、苦労が絶えなかった」
思いもよらない告白に返す言葉は見つからない。
まさかお義母様が私と同じような境遇を乗り越えてきたなんて思いもしなかった。
橘に相応しいご令嬢だとばかり思っていたのに。