契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
言いかけて、パーティーに出席していたわけではないと言うのもどうなのだろうと言葉が引っ込む。
じゃあ何してたんだって話だし、忘れ物を届けに訪れてあんな騒ぎを起こしたなんて迷惑すぎる奴だ。
そんなことをうだうだ考えているうち、同じ二階フロアの部屋へ案内される。
女性の開けたドアの先に背を押されたまま入っていくと、そこはたくさんのドレスやスーツの吊るされた衣装室だった。
部屋の端にはヘアメイク台も用意されている。
「どれでも構わない。気に入ったものに着替えるといい」
「えっ、いや、そんな。本当に、大丈夫ですので」
「こちらのミスだ、遠慮はいらない。ああ、申し遅れた」
なにかを思い出したように。男性は懐に手を入れる。出てきたのは革張りの名刺ケースで、そこから一枚名刺を抜き出した。
「怪しい者ではない」
男性はそう言って私に名刺を差し出し手渡すと、飾られているドレスに近づいていく。
受け取った名刺を見て、目玉が落ちるかと思うほど驚いた。
この方、ここの、TACHIBANAの社長……⁉
名刺には【TACHIBANA GROUP】とあり、【代表取締役社長 橘(たちばな)蓮斗】とある。
こんな肩書の方から名刺を拝受した経験はなく、動揺から手にした名刺を納めることもままならない。