契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】


「食事までまだ少し時間があるから、散策でもするか」

「本当ですか? 散策したいです! 嬉しい」


 駐車場に降り立つと、爽やかなそよ風が頬を撫でていく。

 蓮斗さんは私の手を取り、奥に見える薔薇のアーチが連なるローズガーデンに向かっていく。

 ピンクの薔薇は零れ落ちそうなほど見事に花を咲かせ、私たちを華やかに迎えてくれた。

 咲き誇る美しい薔薇たちに囲まれる光景は、どこか現実離れして目に映る。


「ここに初めて来た時は、なかなか目も合わせてくれなくて、笑うなんてもってのほか」


 思い出すように、蓮斗さんが突然そんなことを口にする。私を見下ろし、くすっと笑う。


「そうでしたね……あの時は、なに話したらいいのかとか、不安しかなくて。一緒に食事をするなんて、考えられなくて……」


 思い返せば、ひとつひとつの所作に必死で、食事の味など楽しめたものではなかった。今となっては懐かしく微笑ましい思い出だけど、あの時はいっぱいいっぱいだった。

「俺は、どうしたらまた次会いたいと思ってもらえるか、そればかり考えてた」

「そうだったんですか?」

「もちろん。どうして?」

「蓮斗さんほどの人が、そんなことを思うなんてって」

「初めてだよ、俺だってそんなこと。澪花に出会って、初めてだった」


 蓮斗さんは薔薇のアーチの中で足を止め、繋いでいない方の私の左手を取る。

 そこに輝くエンゲージリングを付けた薬指にそっと口づけを落とした。

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