契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「どういうものが好みか教えてほしい」
そんな状態の私にお構いなく、橘社長はかけられているドレスを手に取っていく。こちらに向かって「これは?」と次々とドレスを見せていくけれど、私は答えることができず困惑しているだけ。
遠慮はいらないと言われても、こんな風に気遣ってもらう立場ではない。むしろ、会場を汚して迷惑をかけた身なのに。
「これなどどうかな? 似合うと思うが」
ブラックのカクテルドレスを手に取り、私に向かって見せる。
控え目な膝丈で、艶のある素材だけれど、表面にチュールをまとっていて遊び心もある。
デザイン性が高く、ひと目見て『素敵……』と思った。
「嫌いじゃなさそうだな」
「え……」
表情に素敵だと思った気持ちが出てしまっていたのかもしれない。
橘社長は私の元まで来ると、ドレスを差し出し、「着替えはこっちだ」と部屋の奥へと向かっていく。
反射的に受け取ってしまったドレスを手に、彼の後を追いかける。
「あの、本当にこんな」
「汚してしまった服は早くクリーニングをした方がいい。預かろう」
「いえ、帰って適当に洗濯しますので」
クリーニングに出すようないい服なんて着ていない。ネットに入れて洗濯機で十分だ。
「わかった。着替えが済んだら出て来てほしい。少し席を外すが、すぐに戻る」
「え、あ……」
橘社長は私を試着ルームに入れ、足早にその場を立ち去っていく。
ひとりになり、仕方なく試着ルームのドアを閉めた。