契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
しかし彼女は、こちらの謝罪に対してもどうして謝られているのか訳がわかっていないように困惑した様子を見せていた。
自分よりも周囲への気配りが自然と最優先になる。そんな彼女を、完璧な姿でパーティー会場へ戻れる手配がしたい。と心動かされた。
最後の最後まで遠慮していた彼女は、想像を遥かに超えた姿に変身した。まるで、魔法をかけられたシンデレラのように。
ダイヤの原石というのは彼女のような女性に使われる言葉なのだろうと見惚れてしまった。不覚にも鼓動の高鳴りを感じ、自分の変化に戸惑いを覚えたほどだ。
この後もう少し話がしたい。そう思っていたのに、いなくなってしまうなんて、なにか急ぎの所用でもあったのだろうか。
「社長、これが荷物の置いてあったそばに」
片付けを始めていたヘアメイクアーティストが、俺の元へ来て差し出した物。それは、キーチェーンについたカードケース。
「社員証……?」
顔写真は間違いなくさっきの彼女。『株式会社ナナキタ食品』は、ツインタワー内に本社を構える食品会社だ。彼女はそこの総務部で働いているらしい。
千葉澪花……。
置手紙の最後に書かれた〝千葉〟という名にちらりと目を向ける。
落としていった社員証を手にしたまま、やっぱりシンデレラみたいな女性だと思わずにはいられなかった。