契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
私に、来客……?
今日は土曜日だし、特に約束もしていない。
誰だろうと思いながら会社入り口に出ていき、そこに立って待っていた姿に思わず足が止められた。
な、なんでここに……⁉
上背のある三つ揃え。なにより、均整の取れた美しい顔は忘れるはずもない。
出てきた私に気づいた男性は微笑を浮かべ、こちらに向かって会釈をした。
訳がわからないまま会釈を返し、その姿に近づいていく。
私を呼び出した来客というのが、昨日『HOTEL TACHIBANA』で親切にしてくれたあの橘社長だということに驚きながら。
「昨晩は大変お世話になりました」
開口一番、昨日のお礼が勝手に出ていく。
どうしてここに彼が来たのかと考えて、すぐに思い当たる。ドレスのお代の件だ。
「すみません、後ほどお伺いしようと思っていました。ご足労いただいてしまって」
謝罪も込めてそう伝えると、男性は小首を傾げて微笑を浮かべ直す。
「ということは、これを落としたことに気づいたということか?」
「あっ、私の社員証……!」
なくなった社員証をまさか彼が持っているとは思わず、つい大きな声で反応してしまう。
「昨日、衣装室に落ちていた」
「そうでしたか。えっ、では、わざわざこれを届けに?」
「ああ。ないと困るだろうと思ってな」