契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「あの、私は大丈夫ですので」
「相当動揺しているのが顔に出てる」
「えっ」
「昼間会った時とは様子が違うのくらい見ればわかる」
連れていかれたのは磨かれた黒塗りのセダン。現れた高級外車に慄く。
橘社長は助手席のドアを開け、「乗って」と私から手を離した。
遠慮もうまく伝わらないまま、結局車に乗せてもらうことになってしまった。
間もなく運転席に橘社長が乗り込んでくる。
「行き先は?」
「あ……」
「急いでいるんじゃないのか?」
「……はい。隣町の、深緑台総合病院です」
私からの返事で、橘社長はハンドルを握る。「シートベルトを」とだけ言い、すぐに車を発進させた。
ツインタワー前から、車は大通りをイルミネーションが美しいBCストリートに差し掛かる。
クリスマス当日とだけあり、昨日同様多くの人が訪れている。週末というのも相まって、交通量が多く少し渋滞しているようだ。橘社長が言った通り、この様子では駅前のタクシー乗り場に行ってもすぐにタクシーは捕まらなかったかもしれない。
橘社長が運転する車は混雑する道を裏道に入り、渋滞を回避して先を急ぐ。
「あの、すみません。こんな、昨日会ったばかりの、見ず知らずの私のために車を……」
「隣町の病院に急ぎとは、身内か近しい人間でもいるのか」
「はい。母が、入院していて」
こうして送り届けてくれている相手に隠すのは失礼だと思い、病院に向かう理由を告げる。