契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
まずはドレス代をお返しして、橘社長がここにいれば話は早い。でも、きっと多忙な毎日を送っている方だ。不在の確立の方が高いはず。
それでも頭の中でお断りする言葉を整理してまとめる。
ホテルの正門から正面玄関までを、あのクリスマスイブの日のようにひとり歩き進めていくと、ガラス張りのエントランスから颯爽と姿を現したスーツの長身に思わず足が止められた。
橘社長……?
まるで私がここに訪問することでも知っていたかのように姿を現した橘社長は、やはりやって来た私に驚くこともなく、ゆったりとした足取りでこちらに向かって歩いてくる。
私の方が驚いて、その場で足を止めていた。
「来ると思ってた」
その言葉で、〝やっぱり間違いない〟と心の中で確信を得る。
「お話があり、尋ねました。それから、先日のドレスのお代も」
用件を伝えると、彼は端整な顔に笑みを浮かべる。
「立ち話もなんだ。こちらへ」
そう言って踵を返し、ホテル内へと入っていく。
社長である彼に、ベルボーイはすべての動きを止めて丁寧に頭を下げる。
橘社長を訪ねた私に対しても同じよう挨拶をしていて、途端に緊張感に包まれた。
エントランスをくぐっても同様、顔を合わせるスタッフは足を止めて頭を下げる。
橘社長はエレベーターに乗り込み三階で降りると、絨毯の廊下をどんどん進み、やがてスタッフしか通行できない専用通路に入る。
足を止めた部屋の前でカードキーをかざし、黒いドアを開けた。