契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「どうぞ」
目に飛び込んできたのは、黒い革張りのソファセット。奥にはデスクが見える。
ブラックで統一された落ち着いた雰囲気の部屋は、このホテル内にある橘社長の仕事部屋のようだ。
「失礼、します……」
「かけて」とソファをすすめられ、おずおずと腰を下ろす。
さっきまで話すべきことを頭の中でまとめていたのに、すっかり吹っ飛んでしまっている。焦りが顔に出ないように落ち着いて初めに話すことを思い浮かべた。
「さっき、ドレスのお代などと言っていたが、必要ない」
「え? そういうわけには──」
「以上。この話は終わりだ」
きっぱりと言い切られてしまい、それ以上の言葉が出てこない。それでも用意してきた封筒をバッグから取り出し、テーブルの上に置いた。
そんな私に、橘社長はフッと笑みをこぼす。
「真面目、というか、頑固……なのか」
「そういうわけでは……。あんな高価なものをいただく理由がないですから」
そこまで言って、母の治療費の件もこの流れで話せると会話の流れを掴む。