契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「それから、今日伺ったのは、母のことで……突然、ベリが丘の総合病院への転院が決まって、オペもしていただけると。匿名の方から援助いただいたと聞きました。橘社長ではないですか?」
言いたかったことがうまく言葉にできて安堵する。
橘社長は「匿名の意味ないな」と、独り言を呟き呆れたように笑った。
「友人が、腕のいい心臓外科医でな。事情を話したら、担当しようと引き受けてくれたんだ」
「え……」
「今の病院の主治医とも引継ぎをして、オペは可能だということになったらしい。だから正式にお願いをした」
確かに、母が今の病院では適切な手術が受けられないことは橘社長に話した。
だけど、病院間、ドクター間でそのような話が済んでいて、その上で母の転院が決定したなんて思いもしなかった。
「これで、お母様の病状も快方に向かうといいな。あとは、プロにお任せするしかないが、彼は世界でも通用する外科医だ、間違いはない」
「あの、お気持ちも、お気遣いも大変嬉しいです。ですが、あなたにそんなことをしてもらう理由がありません。援助していただくような理由……」
「理由? 理由がそんな必要か。助けたいと思ったから助けた、ただそれだけのことだ」
「ですから、そんな風にしてもらっても、すぐに治療費だってお返しできない現状で──」
「だったら、理由をつくろう。それなら、今感じている負担もすべてなくなる」
私の声を遮り、正面にかける橘社長はソファに背を預ける。長い足を組み、じっと困惑する私の目を見つめた。
「俺の妻になるという交換条件でどうだ」