契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】


「私も驚いたわよ。連れてこられた部屋がこんな豪華な病室だったから、患者取り間違えてないかって」


 母の言う通りだ。これまで四人部屋の普通の病室に入院していたのに、こんな病室に急に来てしまったら確認も取りたくなる。


「でも、諦めていた手術が国内でできることになるなんて、ありがたいわ」

「うん……」

「これで、元気になったら家に戻って、また仕事にも出られるわ! 澪花にも萌花にも、苦労ばかりかけてごめんね。お母さん、頑張るからね!」


 手術ができることが生きる希望となって、気持ちも明るくなっているのが声や表情でよくわかる。

 少し前までは、このまま一生入退院を繰り返していくのだろうと、先の見えない霧の中を彷徨っているような感覚でいたのだ。

 それがやっと晴れてきて、この先に続いている道が見えてきた。母の嬉しそうな表情に私自身も笑顔になる。


「でも一体、どなたがこんな親切なことをしてくれたのかしら……」

「あ、うん……」

「何度訊いても、お答えできませんって言われてね。匿名だから、仕方ないかもしれないけれど……澪花も、なにも知らないんでしょう?」

 なんと答えたらいいのかわからず、「うん」と短く答える。


『俺の妻になるという交換条件でどうだ』


 この間の衝撃的発言が彼の洗練された姿と共に頭の中に思い出され、追い出すようにして「ちょっと周り見てくるね」と病室をあとにした。

 明るい廊下に出て、目的もなく病棟を歩いていく。自動販売機でも探そうと思った時、進行方向に現れた人影に足を止められた。

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